100歳になってもはたらける職場『BABA labさいたま工房』

年を重ねても好きなことや得意なことをいかして働いたり、多世代で交流できる場を地域につくりたい。そんな想いから生まれた仕組みです。

工房では、子連れママから90代のおばあちゃんまで、多世代の女性たちが、ものづくりをしています。子育て、介護、病気。年を重ね変化していく環境のなかで、自分の好きなことやできることを生かして働ける職場が必要です。また、それが地域に存在することで、通勤にかける時間を減らし、子育てや介護の負担をなくしたり、足腰が弱くなり移動が大変になっても通うことができます。

2011年12月、さいたま市で、100歳まではたらけるものづくりの職場「BABA labさいたま工房」(以下、工房)をオープンしました。

さいたま市では「埼玉都民」と揶揄されるように、地元のことは何も知らぬまま、平日は朝から晩まで都内のオフイスへ働きにでかけ、定年後に初めて地元を見渡し「さて何をしようか?」と戸惑う人が少なくありません。

定年年齢が引き上げられ70歳まで働くひとも増えてきましたが、低下する体力や気力が理由で断念したり、職場が自分の好きなことや特技を発揮できる場ではなかったりと高齢者の労働環境は十分とは言えません。

年齢を重ねても、好きなことや得意なことを生かして働くことができ、地域のひとたちと交流ができる場をつくる、それが工房を立ち上げた目的です。

さいたま市内の住宅街の空き家を借りてミシンを3台購入し、近隣のカフェから大きな白木のテーブルをゆずり受け、それを作業台とした。チラシを配布したり、ホームページを開設したりして、仲間探しを始めました。

当時は「人生100年時代」という言葉もメディアに登場しておらず、「100歳まで働ける?そんなの無理でしょ」と笑われることが多々ありました。

地元の公民館で手芸教室を開きながら、少しずつ仲間を増やしていきました。ただ、ひとり増えてはひとり減り、3人増えては2人減りと、スタッフを集めるのには苦労しました。そのうち、地元新聞紙に取り上げられたことから注目度があがり、「うちの母が工房の近くに住んでいて、参加させたいんです」という相談も受けるようになりました。

工房で製造しているのは「孫育てグッズ」と呼んでいるオリジナル商品です。近年、親の近くに住み、孫の面倒を見てもらいながら働く若い世代が増えています。身体機能が落ちた高齢者が子どもの世話をするのは大変です。例えば、ほ乳瓶のメモリが見えなかったり、首の座っていない赤ちゃんの抱っこが怖かったり。そこで、高齢者の身体の負担を減らして、楽しく孫育てができる商品をみんなで企画し、製造販売しています。

「BABA labさいたま工房」のモットーは「来る人は拒まず」。一般の企業では、元々ある仕事にひとを配置していますが、工房では「来てくれたひとに仕事をつくる」を基本としています。

裁縫の技術を生かして製造に関わったり、パソコンができる人は販売管理をしたり、おしゃべりが得意な人は接客で力を発揮したり、常時40代〜90代のスタッフ約20名程度稼働しています。

スタッフは、一週間に1回〜2回工房に通い、作業をしたり、商品アイデアを出したり、おしゃべりしたり、ワークショップを開催し手芸を教えることもあります。

製造スタッフは、内職と同じ様に作業料金が決まっています。時給で管理業務をするスタッフもいれば、ボランティアとして生地を切ったり、お客様へのチラシを折ったりしてくれるスタッフもいます。

70歳を過ぎてくると「やれないこと」が日々増えてきます。昨日までまっすぐ縫えていたミシン目が曲がったり、刺繍の縫い目がバラバラになったりするのです。そんなときは、「ミシンじゃなくて、手作業で縫えるこっちの作業をやってみませんか?」と声を掛けています。ひとりでやればあっという間に完了する作業を難しいものから簡単なものまで細かく分けることで、誰でも何かしらの作業に関わることができます。90代になると、商品の製造に関わることはできないので、ミシン掛けやチラシ折りをお願いしています。

当初からこだわったのは「お金が得られる」ということです。ボランティアではなく、製造販売してお金を得たり、近所のひとたちに手芸を教えて講師料をもらったり、様々な場で役割があり、対価をもらえる仕組みをつくりました。

「お金」は社会との接点をもつ記号。金額の大小は関係なく、少額でも対価を得ることで、社会に必要とされているという充足感を得ることにつながります。

ある」。できなくなったら終わりではなく、その人のできることを見つけて役割をつくることが、高齢者が長くはたらける仕組みづくりのポイントだと思っています。

<BABA lab さいたま工房の情報>
工房では、見学や取材の依頼を受けています。お問い合わせよりご連絡ください。

住所:さいたま市南区鹿手袋7-3-19
電話:048-799-3214 E-mail:mail@baba-lab.net
URL:http://babasaitama.com/

「ものづくり」「職場」「多世代交流」「空き家利用」「大学や企業との連携」など

取材記事(参考)
介護や未来への不安を明るく照らすウェブメディア『tayorini(たよりに)
https://kaigo.homes.co.jp/tayorini/interview/baba-lab/

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