【私たちの見聞録】自宅を開放したシニアや親子が集うコミュニティサロン
コミュニティサロン「みんなの夢ハウス」 代表 五味滋子さん
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BABA lab代表の桑原とライターの渚は、50代に突入した団塊ジュニア世代です。
まだまだ先と思っていた「シニア期」がぐっと近づきました。“◯歳から”いきなりシニアになるのではなく、気が付いたらシニア行きのトロッコに乗って、緩やかな坂を下り始めたような感覚もあります。
トロッコに乗り込んだ私たち、どうせ坂を下るのであれば、「みんなで愉快に転がりたい」とも思うのです。
愉快に生きるためのヒントを得るために、今どきのシニアに会いにでかけたり、シニアが集う場所に伺ったりする、そんなコーナーが始まりました。
聞きたいこと、知りたいことがたくさんあります!いざ出発
今回は、さいたま市浦和区のご自宅を開放してシニアや親子が集う「みんなの夢ハウス」を運営し、民生委員・児童委員を務める五味滋子(以下五味さん)さんに、お話を伺いました。
「みんなの夢ハウス」 代表の五味滋子さん
自宅を地域に開放 「みんなの夢ハウス」ができるまで
―――「みんなの夢ハウス」にお邪魔しています。今日は健康麻雀の日で、参加者の皆さんで準備をして、おしゃべりしながらなごやかな雰囲気で麻雀をされています。ここで麻雀をはじめた方もいらっしゃるそうですね。みんなの夢ハウスはどんな場所ですか?
五味さん:みんなの夢ハウスは、私の自宅を開放した、地域の方々が気軽に集まれる「地域の居場所」です。2021年5月にオープンしました。30代から90代まで60名前後の方が会員で、おもちゃ図書館を利用してくれる親子を含めて、毎月130名以上の利用があります。最高齢の参加者は96歳のおばあちゃんです。
玄関前にある掲示板には、みんなの夢ハウスのスケジュールを載せた「夢通信」や、倶楽部活動のチラシを掲示しています。通りすがりに掲示板を見て参加を決めた方もいます。自治会の回覧板に「夢通信」をいれてもらったり、Facebookで案内を広めています。
―――たくさんのチラシが張ってある掲示板には、思わず足を止めて読んでしまいます。みんなの夢ハウスを始めるきっかけを教えてください。
五味さん:私が暮らすさいたま市浦和区針ヶ谷4丁目が利用する公民館や自治会館は線路の向こう側にあります。公民館でサークル活動をしていた方が高齢になると、線路を渡って公民館に行くのが困難になって、活動を辞められる方も多いです。元4丁目の自治会の会長さんが老人会の会長になって、「4丁目住人のための老人会を作ろう」と動き始めました。会長さんの地域活動に熱心なお人柄と活動に共感して、私も地域のお役に立てればと民生委員・児童委員になりました。
倶楽部活動が行われる2階リビング。お茶やコーヒーなどの飲み物はセルフでいただける
そんな矢先、会長さんが2019年の夏に急逝されてしまいました。2020年2月に会長さんの遺志を継ごうと思うメンバーで集まり、どんな地域活動を進めていくか話し合いを始めたのですが、そこにコロナ禍です。話し合いは一旦ストップしてしまいました。
その時にシニアの学び直しと再チャレンジが学べる「埼玉未来大学(以下未来大学)」の開校を知りました。コミュニティカフェづくりの知識を得たいと第一期のコミュニティカフェ開設講座に参加して、講座の最後に「みんなの夢ハウス」の原型となる事業計画書を発表しました。
当初、自宅でコミュニティカフェを開くことを考えていましたが、「私、料理は好きじゃないし、コロナで人を呼ぶことは難しい。カフェを開くには自宅を改装しないといけないし……」とためらいや不安もありました。未来大学の同期に話すと「まずは保健所に行って聞いてみたら?」と言われました。そこで保健所に行って聞いてみると、「今のままの住まい方では営業許可は下りない。セルフでのお茶菓子提供であれば、営業許可はいらない。」と言われました。
それを聞いて「私が作りたいのはカフェじゃなくて、地域みんなの居場所!コミュニティサロンを開こう。コミュニティサロンなら私もできそう」と肩の荷が下りた気持ちになりました。
―――自宅でコミュニティサロンを行うことには、ご家族はどんな反応でしたか?
五味さん:ある時、私がリビングで家の中を見渡していたんです。それを見た夫が「どうしたの?」と話しかけてきたので、私が「ここにいろんな人が出入りしたら嫌だよね?」と聞くと、「別に構わないよ」と返事をもらいました。この返事を受けて自宅でコミュニティサロンを開くことが決まりました。
場所探しが一番難しいと感じていたので、夫が自宅でコミュニティサロンを開いていいよと言ってくれたのはとても大きかったです。夫もグラウンドゴルフの活動に参加したり、役員の監事になって、一歩離れたところから活動を見てくれています。
取材日は健康麻雀の日。準備も麻雀中もおしゃべりは絶えず、終始明るく和やかな雰囲気に包まれていた
みんなで教えあい活動する倶楽部活動
―――たくさんの倶楽部活動は、どのように始まったのですか?
五味さん:倶楽部活動の最初は、メンバーの「こんなことがやりたい」から始まります。例えば、麻雀がやりたいという声があったので、ご近所に住んでいた80代のおじいちゃんに講師をお願いしました。すると「講師というのはいやだ。みんなと一緒の立場でやりたい」となって、麻雀のワンポイントを最初に話してもらってから、みんなで麻雀をすることになりました。その方がお亡くなりになった後も、その想いを受け継いで、教えられる人が初心者に教えて、みんなで楽しく麻雀をしています。編み物もやりたいという声が上がったので、編み物が得意な友人に、講師をお願いしました。すると友人からは「講師ではなく、集まった方にアドバイスはするけれど、講師謝金はいらない」と申し出があって、今もその形で活動が続いています。俳句倶楽部も先生はいなくて、参加者同士で句を持ち寄って、意見交換をするというアットホームな雰囲気なんですよ。
地域には、いろいろなことができて、教えられる人がたくさんいます。
みんなの夢ハウスの倶楽部活動は、講師が教えるというよりは、みんなで相談して、分からないことも教えあいながら、一緒に楽しむという雰囲気が特徴かもしれません。
―――たくさんの倶楽部活動がありますが、シニア倶楽部や夢体操、まちの保健室は、高齢者に人気があるとお聞きしました。
五味さん:この3つは他の倶楽部活動とは意味合いが違う形で行っています。
シニア倶楽部では、人生100年時代の参考になりそうなテーマを、月1回開催しています。最近は「針ヶ谷をモノガタル」と題して、地域の歴史を語るシリーズが人気で、既に13回開催しています。
前回からさいたま市で発行している『浦和区文化の小径マップ』を資料に、お話をしてもらっています。
夢体操は、全国のご当地シニア体操で、楽しく椅子に座ったままでできる体操の動画をロールスクリーンに映して行っています。参加者は80代から90代の方です。
まちの保健室は、NPO法人ReMind(リマインド)から栄養士、理学療法士や言語聴覚士などの専門職の方にきていただき、講座を開いてもらっています。
特に夢体操とまちの保健室は、支援が必要な、またはこれから必要になる高齢者に来てほしいと思って行っています。
人って「支援しますよ」と言っても、知らない人に支援されるってハードルが高いと思うんです。その前に人間関係ができていないと支援につなげることは難しいですよね。なので、まず夢ハウスで参加者同士が顔見知りになって、横に繋がっていく。そこから支援が必要な方がいらっしゃれば、支援を行っていく。私たちだけで解決できないことは、必要な福祉や支援団体につなげていく。私はそれがいい形であると思っています。また、場を開き、様々な方が出入りすることで、いろんな情報も自然に入ってくるんです。民生委員としては大変ありがたいことです。
おもちゃ図書館では、おもちゃや絵本の無料貸出を行っている*みんなの夢ハウス利用料として親子さん1組(お子さんは何人でもOK)300円・1ドリンク、プチお菓子付き
―――倶楽部活動に参加されている方からどんな声があがっていますか?
五味さん:「最初は緊張したけど、来てみたらとても居心地が良かった」とか、「みんなで集まって、おしゃべりしたり、一緒に何かを作ったりするのが本当に楽しい」という声をよく聞きます。
「ここに来ると、元気をもらえる。また明日から頑張ろうと思える」と言ってくださる方もいて、本当にうれしいです。
みんなの夢ハウスには、親子にも集って欲しいと思い、未就学児のいる家族がお子さんとおもちゃで遊んだり、おもちゃの貸出ができる「おもちゃ図書館」も開催しています。
新しいことにチャレンジしたい!50代に東海道を踏破
―――ところで、我々の年代、50代の頃の五味さんはどんな風に日々過ごされていましたか?モヤモヤしたり、不安があったりしましたか?
五味さん:家族のライフサイクルにあわせて30代から非常勤の仕事をしていました。PTAの会長を引き受けて、集まったメンバーの得意なところが活かせる役割分担をして、目的を持ってチームで動くことの面白さを知りました。
50代では、埼玉県男女共同参画推進センターで、それまでの経験を活かし、専門員として働き、地域で活躍する女性リーダーを育てる講座の担当をし、講師や受講生から大いに刺激を受けました。プライベートでは、「何か新しいことに挑戦したい」と思って、東海道を1年半かけて踏破しました。
「おしゃべりができる相手と場」で長生きして楽しく過ごせる
五味さん:90代の実母やみんなの夢ハウスに集う高齢者の方を見ていると「好奇心を持ち続けること」が「元気の源」だと強く感じます。歳を重ねても、やりたい気持ちがあれば、何でもできると思います。みんなの夢ハウスに通う90代の方は、新しいことに挑戦してイキイキと倶楽部活動をされています。「年だからできない」と決めつけないで、まずはやってみること。あとは「負けず嫌い」なのも必要かも(笑)。
―――最後に、五味さんの考える「長生きが悪くないと思える社会」とは、どのようなものでしょうか?
五味さん:「おしゃべりする相手がいる」「おしゃべりできる場があること」が大切だと思います。昔は、近所の人と気軽にお茶飲みをして、おしゃべりすることが当たり前だったのが、今はそういう場所が少なくなっています。おしゃべりする相手がいる人や、みんなの夢ハウスのような場所に来られる人は、80代でも若々しく、楽しく暮らせると思いますね。楽しくないと長生きしてもつまらないと思うんですよ。私自身は病院で寝たきりになったり、家に一人でひきこもったりして、長生きするのは嫌だなと思います。
自分の住む地域に、自分のやりたいことを仲間とできて、おしゃべりしたり笑いあって過ごせる場所がある。そんな社会が理想です。
ライター 渚いろは/カメラマン remi
みんなの夢ハウスを訪れて
BABA lab代表 桑原静
75歳を過ぎて、体力に加え気力も落ちると、出かけることも趣味を続けることも「面倒」な気持ちが勝るというデータがあります。そんなとき、徒歩圏内にいつでも自分を歓迎してくれる場、自分を知ってくれている場があるという安心感が”住み開き”にはあります。誰かの家に遊びに行く感覚で健康が維持できて、誰かとつながれる場。超高齢社会において必要な地域のセーフティネットだとあらためて感じました。
ライター 渚いろは
以前、高齢者には『きょういく(今日行くところ)』と『きょうよう(今日の用事)』が大切だと聞いたことがあります。身近な家族を見ていても、自分の足で遠出するのはだんだんと難しくなっているのを感じています。歩いて行ける場所に自分のやりたいことがあるのは、シニアにとってのセーフティネットだと今回の取材で強く思いました。
「みんなの夢ハウス」の活動
オープンは、木・金・土曜日の午前、午後
手仕事、園芸、俳句、編み物、健康麻雀、グランドゴルフ、シニア体操などの倶楽部活動やまちの保健室、おもちゃ図書館あり。
参加費は1回300円でお茶とお菓子付き。講師を招く活動は1回500円。
隔月第2土曜日に「プチマルシェ 夢市・夢座」を開催