“団塊ジュニア世代”が考える。シニアの居場所 <前編>
私が『BABA lab』をスタートしたとき、「なんで、30代のあなたがシニアのことを?」と聞かれることが多々ありました。どこに顔を出しても年輩の方ばかりの業界で、唯一出会った同級生が澤岡さんでした。同じ熱量でシニアのことについて語れる澤岡さんと、「シニアの居場所」について語り合いました。
澤岡詩野(さわおか・しの)
1974年生まれ「団塊ジュニア世代」
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団主任研究員。専門領域は老年社会学、高齢社会の地域づくり。人生100年を豊かにするための、家庭でも職場でもない3つ目の居場所の在り方を明らかにすべくフィールドワークに力を注いでいる。著書『地方創生へのまちづくり・ひとづくり』(ミネルバ書房刊 2016年)など
桑原静(くわはら・しずか)
1974年生まれ「団塊ジュニア世代」
BABAlab 代表。WEBコミュニティの企画者を経て、リアルなコミュニティをサポートする世界に飛び込む。2011年『BABA lab』事業をスタート。シニアの働く場・学ぶ場・遊ぶ場の仕組みづくりに取り組む。「長生きするのも悪くない」と思える仕組みを多世代で考えることがミッション。
https://www.baba-lab.net/about
-----------------シニアにとって必要な「居場所」とは?
>桑原
新型コロナウィルスの感染拡大防止のために外出規制が出ていますが、シニアの反応は、まさに人ぞれぞれですね。ルールを守り、自宅にこもり過ぎて腰痛を発症している人もいれば、開いている店を探してあちこち巡っている人もいます。みなさんに共通しているのは、いつも行くところに行けないということ。趣味の習いごとであったり、お茶会であったり、スポーツジムであったり…。澤岡さんがいつもお話しされている「居場所」の必要性を再認識しました。あらためて、シニアにとって「居場所」とはどんなものでしょうか?
>澤岡
「居場所」と「場所」の違いはなんだと思いますか?単に一文字多いだけではないのですよね。
「居」には「居方(いかた)」という意味があります。つまり、場所は単なる空間ですが、そこに「居」が加わることで、自分らしくいられる“居方ができる場”という意味になります。「現役時代は前を素通りしていた近所の公園に、退職後に犬の散歩で行くようになり、犬友ができて、今では公園に行くことが生活の一部になっている」定年退職した方からこんな話を聞くことがあります。まさに、それまでは単なる場所だった公園が、犬友と話せる馴染んだ「居場所」になったというです。そんな何気ない日常の一コマも「居場所」だったりするわけです。
桑原さんは「シニアの居場所」というと、どんな場を思い浮かべますか?
>桑原
人によってそれぞれですよね。たとえば長年続けている書道や体操の教室だったり、会社のOB会だったり、色々あると思います。ですが、まずは「家」と答える方が多いかもしれません。でも、家庭の様子は周りから見えませんし、はたしてそこが本当の「居場所」になっているのかはわからないですよね。
>澤岡
確かに、シニアのなかには「家」と答える方が比較的多いと思います。家があるから充分、新しく出ていくのはおっくう…という方もいらっしゃいます。これはよくわかりますよね。今までずーっと仕事したり子育てしたりしてきて、ようやく面倒なことからも解放されるのになんでまたこれから…となりますよね。
>桑原
私の父(70歳)もそうです。新しい場所に出ていくのはおっくう。楽だから家に居る、ということだと思うんですが、<家で家族と>だけになってしまうと、家族同士ゆえの面倒なこともあるし、心が充たされる「居場所」とはまた違うのでは…?と疑問に感じてしまいます…娘としては。
>澤岡
そうですよね、やっぱり「家」以外の「居場所」が必要なんですよね。なぜシニアになってから家以外の新しい居場所が必要なのか?私と桑原さんの年代である40代頃から振り返って考えてみましょうか。
今のシニア世代の多くは、40~50代を夫は外で家族のために仕事を、妻は夫にかわって必死で家を守る、という役割分担で過ごしてきたと思います。夫にとっては、「職場」が大きな居場所であり、妻にとっては「家」が大きな居場所ですよね。
しかし、高齢になってくると、この何十年間も必死に守って来た大きな居場所から卒業したり、居場所の大きさが小さくなったりします。そのため、これに変わる居場所を見つけられないと、閉じこもったり、生きがいを見い出せないまま長い時間を過ごすことになってしまいますよね…。
>桑原
誰しもが長生きできる時代です。シニアになり、30年間守ってきた居場所から卒業して、その先にさらに「30年もある!」そこから、次の居場所を見つけないといけない…。これはどう考えてもハードですね。私も引きこもってしまいそう(笑)
-----------------シニアの「居場所」づくりは“近場”がポイント?
>澤岡
ところで、居場所を見つけて輝いているシニアの方でも、75歳を過ぎる頃から、要介護になったわけではないのに、少し目の輝きがなくなってくる、そんな方もいらっしゃいますよね。
>桑原
私もシニアと接する中で、それは肌で感じますね。特に男性に多いような気がします。この間までは元気に活動のリーダーをしていたのに、最近姿を見ないなと思ったら「俺、もう引退したんだ~」と。そうですね、年齢も75歳前後からだと思います。
>澤岡
私の知り合いの方で “退職後は農家になりたい”という夢を実らせて、山梨の畑を手に入れ、半分は今の住まい、半分は山梨で農業という生活を楽しんでいた男性がいます。その方が70歳を過ぎた頃からでしょうか、「通いきれない」とボヤくようになり、80歳になった今は農家を諦めて自宅に戻り、奥さん以外との会話はほとんどなし、散歩と図書館通いの毎日です。
>桑原
老年社会学の世界で言う“フレイル”(※注1)ですね。
※注1 フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態
>澤岡
そうなんです。70歳真ん中ころから多くの人に自立度の低下、虚弱化という変化が起きてきます。そうなってくると、電車での外出もだんだんおっくうになってくるわけで、結局は家から徒歩・自転車位くらいの範囲に生活が落ち着いてくるのですよね。そうなってから近場に居場所をつくるのは、さらにおっくうになりますから、早いうちから近場である「地元」に居場所をみつけておく、種まきをするということが大事になりますね。
>桑原
私の周りの楽しそうに活動しているシニア男性は、サラリーマン時代から、子供を通じて子育て支援の活動に関わったり、地域のお祭りに積極的に参加したり、スタートが早い人が多いですね。早い人では、30代から始めているかな。活動の内容や形態にこだわらず、まずは「地元」でできそうなことを探していく、というのがポイントになりますね。